2017年9月の絵手紙エッセー『バナナ』
あの遠い日、私がまだ幼い頃 熱を出して学校を休んだ日 風邪をひいて床に伏せっていた日 そこに母の魔法のような言葉があった 『シーッ、皆んなには内緒だよ』 そう言いながら前かけの下から そっと取り出し食べさせてくれたのは 黄色に輝く一本のバナナだった 『シューッ、シューッ』 バナナの先端からゆっくりと皮を剥き 柔らかな肌色のバナナを私の手に 『ほら、食べな。すぐ元気になるよ』 妹や弟たちには内緒のバナナ 母さんと二人だけが知っているバナナ たった一本の、私だけのバナナ 思い出せばあの頃のバナナは高価で めったに食べられない果物だった なのに・・。母さんのバナナは いつも食べると直ぐに病気は治った バナナ、誰にでも愛されるバナナ 私もそんな人間になりたいと思った日 |