『母のにほい』(2022年10月の絵手紙エッセー)
朝夕の風に秋の深まりを感じる あれだけの猛暑が嘘だったように 勢いを失っていた木々たちも 少しずつ頭をもたげ 高く青い空を見上げている 秋の訪れをいち早く 知らせてくれるのは萩の枝先 わずかな風にさえ穂先を揺らし ここよ、ここよ、秋は来たのよ と、教えてくれるのだ 静まりかえった石段の両脇に ふわり、ふわりと枝を揺らす いつの日だったか、遠い昔 この石段を、いつも上った 母は萩の一枝をちょこんと 髪に差して 『コーン、狐の嫁入りでござる』 おどけた母の笑顔が可愛くて 二人で大笑いしたものだった 萩の花が咲く頃になると 母のにおいを感じてしまう |