2016年11月の絵手紙エッセー『柿の味』
『こらッ、早よ降りて来んか 柿の木ば直ぐに折れるけん危なかよ』 下から見上げる母の目は鋭かった あれは私がまだ小学校ぐらいの頃 庭先の柿の古木に登っては叱られた 秋が近づくに連れ色艶を増す柿は その頃の子供にとって空腹を満たす 唯一の食べ物、おやつだった 竹竿の先を二つに割り柿の小枝を 挟んでポキッ、と折る方法より スルスルと木に登り手当たり次第に 熟した美味しそうな柿をかじる方が よっぽど手っ取り早かった。しかし 柿の木は折れやすく危険が伴った 『ほな、なんぼ言うても利かんなら 父ちゃんに言うけん木から降りんなよ』 母の最期の手段はいつもこうだった 昔の父ちゃんは怖い存在だったから 母のその台詞にはいつも勝てなかった さて今年も柿の実る季節はやって来た 遠い日の母を思い出す季節でもある |